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処女はお姉さまに恋してるSSスレ 第19話

153 :1/22:2010/08/14(土) 21:00:45 ID:7mA8Gq590
「どうよ、最近のお嬢の様子は」

 秋のある日。定期的に交わされる薫子の近況報告のため、千早と順一は駅前のオープンカフェに身を寄せていた。
 晩夏の名残の太陽も最近はようやく勢をひそめてきた涼やかな一時。
 こんな日にアイスティーを片手に他愛もない話に華を咲かせるのは、
 きっとありふれた光景のはずなのに、普段よりずっと楽しいものに思えてくる。

「ええ、すこぶる元気ですよ。いっそ私の方がげんなりしてしまうくらいですね、最近は」
「おいおいそれでも男かよ。少し女のふりが板に付き過ぎてきたんじゃないのか?」
「言わないでくださいよ、最近自分でも少し自覚持ち始めてきたんですから……」

 あの長い黒髪で光合成でもしているのだろうか、千早が思わずそう考え込んでしまうほどに近頃の薫子は活発な様子を見せていた。
 正体がばれた時はどうなることかと思ったが、打ち解けた今となっては彼女は千早にとってすでに気の置けない友人の一人である。
 それと共に、彼女を通して知り合ったこの順一という男性のことも、千早の中では信頼の置ける人物としてその評価を改め始めていた。
 この人はきっと薫子さんのことが気になって仕方がないのだろう。そしてそれは家族に対するとても真っ直ぐな感情から来るものなのだ。
 男でありながら男性という存在に苦手意識を持っていた千早にとって、その心変わりにはどうにもむずがゆいものを覚えずにはいられなかった。

154 :2/22:2010/08/14(土) 21:06:02 ID:7mA8Gq590
「まあなんだ、お前がアイデンティティーの危機にあろうが、俺にとっちゃどうでもいいことなんだがなあ」
「順一さん、結構辛辣なことを平気で言ってくれますよね」
「お前相手に遠慮してやる必要性を感じないだけだ。それともなんだ、もっと女らしく扱って欲しいのか?」
「そ、それは……もう、いいですよ」

 けれどもそれは決して悪い感情ではない、少なくとも自分が良い方向に変わりはじめている事の証拠だろう、千早は胸の中でそう結論付けた。
 そう考えるようになると、彼の少々無遠慮な言葉も、それほど嫌と感じないから不思議なものである。
 薫子のような溌剌とした女性とはまた違う、いわゆる男友達というものはこういうものなのかと、
 千早は胸にくすぐったい気持ちを抱えてくすりと笑うのであった。


 ――その笑顔に向けて。
 通りの向こうからシャッターを切られていたことに、気がつくこともなく。


「あ、あれは……!」


155 :3/22:2010/08/14(土) 21:13:29 ID:7mA8Gq590
 ▽


「千早! 千早ぁ! いったいどういうことなのよう!」

 そして現在に至る。
 部屋に引きこもったまま出てこない千早に痺れを切らし、薫子はついに強行突入に踏み切った。
 寮母に頼み込んで借りてきたマスターキーで部屋のドアを開けると、カーテンの隙間から差し込む斜陽の赤い光の中で、
 虚ろな目をしてベッドにしな垂れる姿がすぐに見つかった。シーツの上に振り撒かれた銀髪はどこか扇情的で、
 まるで映画のワンシーンのような光景に、薫子は思わず生唾を飲み込んだ。

「ああ、薫子さん……なにか、御用ですか」
「ご、御用もなにも! あんた、一体なにをしでかしたのよ!」

 だがこんなところで一々見蕩れてしまっては話が進まない。
 気持ちを切り替え、薫子は魂の半分が抜けてしまったかのような千早の顔をずいと覗き込みながらそう尋ねる。
 しかし返ってくる言葉は弱々しく、耳を澄ませていなければきっと聞き取ることもできなかった。

「何もした憶えがないからこんなに頭を悩ませているんですが……」
「何かしたからっ、こんな画像が出回ってるんでしょうがー!」

156 :4/22:2010/08/14(土) 21:20:55 ID:7mA8Gq590
 そう叫んで薫子は握り締めていた携帯の画面を千早の眼前に突きつけた。
 千早の色素の薄いひとみに、その画面に映し出された一枚の画像がぼんやりと映し出される。
 いつ、こんなものが撮られたのだろう。誰が何のために撮ったのだろう。
 エルダーというものはプライベートにまで衆人監視の目が行き渡るような存在なのか、それならばこんな二つ名全く持って願い下げだ。
 そう胸の中で吐いた悪態は、もちろん誰にも聞こえることはない。

『千早嬢、休日の密会?!』

 携帯の画面には女装をした自分と、凛々しい面立ちの青年――順一がカフェテラスで談笑をしているワンシーンが収められていた。
 もちろんこれだけなら単なる日常の一風景として流されてしまう画像であったに違いない。
 しかし問題はそこに写っている人の表情であった。
 いつも静かに佇んでいる姿が麗しいと評判の静のエルダー、妃宮千早。
 しかしその画面の中に映し出された彼女の姿は、その評価に斜めから切り込んでいくような衝撃があった。
 笑っていた。
 眩しいぐらいに、満面の笑みだった。
 これが自分の顔だなんて、信じることができないぐらいに。

157 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 21:24:31 ID:fk2UT9ki0
お茶をおいれしますわ。お姉様


158 :5/22:2010/08/14(土) 21:26:09 ID:7mA8Gq590
「これはまた、ずいぶんと腕のいいカメラマンがいたものね。被写体の最高の一瞬を見逃さないなんて」

 不意に飛び込んできた新しい声に、薫子はそちらの方へと視線を向ける。ドアの側に立っていたのは香織理だった。
 彼女もまたあの画像を見た一人らしい。呆れたような、それとも愉快そうな顔を浮かべながら部屋に入ってくると、香織理は千早に続けて言った。

「私もぜひ、この写真の真のところを知りたいわね。興味を持つな、っていうほうが難しい話じゃない」
「そ、そうだよ! ここ、これに写ってるのってあんたと順一さんじゃないのよ! 密会って、まさか、千早……?!」

 頬を真っ赤に染め上げながら薫子が言う。
 彼女が何を考えているかが手に取るようにわかって、千早の頭痛はますます酷いものになる。

「違いますよ、そんなスキャンダラスな真実なんかありません! 薫子さんだって知っているでしょう、僕が順一さんに貴女の近況を報告しに行っていることぐらい」
「そ、それはそうだけど……でもだってこの写真、その……」
「その、なんですか?」

159 :6/22:2010/08/14(土) 21:31:42 ID:7mA8Gq590
 そこでどうして恥ずかしそうに口ごもるんですか、と声を大にして叫ぶことができたらどんなに気が楽になることか。
 何故事情を知っているはずの薫子さんまでそんなにミーハーな反応を示すのか千早にはまったく理解ができなかった。
 いや、正確に言えば察しはついているのだが、それを認めることは千早の男としての最後のプライドが頑として譲らなかったのだ。
 ――そんなに、
 そんなに、お似合いの見えるのか?!

「み、……見えちゃうじゃないのよ」
「なにが? どんなふうに? ええ?」
「だからその、千早と、順一さんが……こいびと同士、みたいに、「あってたまるかそんなことー!!」

 だが、薫子の思ったことを素直に口に出すその性格の前に、千早の理性が正気でいられるはずもなく。
 行き場を失った感情はそのまま溢れかえって、千早の口から咆哮となって学生寮を震わせた。

「ひぃっ! ご、ごめんなさいぃっ!」
「薫子さん……世の中には言っていいことと悪いことがあるんです。
 そこを履き違えると地獄を見ますよ。
 ああ、それとも見たいんですか、地獄。物好きなんですねえ、薫子さんは」
「違くてっ! ああもうっ、だってこんなの見て勘違いしないほうがおかしいでしょ!
 なんなのよこんな風に頬なんて赤らめちゃってさあなに照れ隠し? 照れ隠しなの?!
 どこの純情乙女よ! こんな顔見たら誰だってときめくに決まってるじゃない!!」

160 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 21:32:21 ID:fk2UT9ki0
クッキーをどうぞ


161 :7/22:2010/08/14(土) 21:38:26 ID:7mA8Gq590
 対する薫子の反応は、見事なまでに逆ギレである。
 どうして自分が怒鳴られなければならないのだ、元はといえば全て千早自身の身から出た錆じゃあないか!
 ――というようなことを言いかけて、しかし薫子は口を噤んだ。千早の黒い微笑みを前にして、いったいどんな反抗ができよう。
 悲しいかな、飼い犬は主人には逆らえないのであった。

「まぁまぁとにかく落ち着きなさいな二人とも。一つずつ状況を整理していきましょう。
 とにかくはまぁこの写真の真偽を問わなくてはならないわけだけれど……
 千早、本当にここに写っている男性の方とは特別な関係にないのよね?」

 そんな二人を見かねてか香織理が仲裁に入る。――最もそれは彼女自身の好奇心を満たしたいだけだったのだけれど。
 なだめすかすでもなく、整然と問うように、香織理は千早に質問を投げかけた。

「当たり前じゃないですか、僕は男ですよ」
「でも、実際に会っていたことは本当なのよね。
 たとえばこの写真はいたずらに作られた合成写真っていう可能性も考えられなくはないのだけれど
 ……その顔を見るにそれも違うみたいね」
「彼と、順一さんと会っていたことは本当ですよ。これが初めてでもありません。今までにも、何度か」


162 :8/22:2010/08/14(土) 21:43:50 ID:7mA8Gq590
 そこまで言って、千早の視線がふと薫子に注がれるのを香織理は見逃さなかった。
 なるほど、道理で薫子がさっきからオーバーなリアクションを見せるはずである。
 身内同士でこんな騒ぎを引き起こされたのでは、彼女も気が気でないに違いない。

「ご友人、ってところかしら。まあそこは深く追求しないことにしておくわ。千早のプライベートみたいだし」

 大方事の真相は見えたところで香織理はそれ以上の追求を止めた。
 おそらく今回のことは勘違いに勘違いが重なり続けた相当アンラッキーな一例なのだろう。
 こうなってしまっては誰に否があるとも言えない。
 千早には申し訳ないが、これはもう天災と思って諦めてもらうしかなさそうである。

「ねぇねぇ千早、本っ当に順一さんとは特別なことはないのよね?」
「くどいですよ、薫子さん」
「でもさあ、その……男の人同士でもぉ、あるかも、知れないじゃない?」
「ないからっ! 僕はノーマルですから!」

163 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 21:45:17 ID:54GPUl/s0
支援です

164 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 21:48:53 ID:fk2UT9ki0
>>163
こちらにお茶会をしますのでお花でも摘んできていただけませんか?


165 :9/22:2010/08/14(土) 21:49:48 ID:7mA8Gq590
 ……もっとも実際のところ、目の前では現在進行形の人災が、千早の傷口を無理やりに押し広げ塩を塗り込んでいるところなのだが。

「まあ千早の本心がどうであれ、こうしてゴシップとして上がってしまったものはどうしようもないわね。
 今更言い訳をして回ろうったってきっと無駄よ、
 エルダーが学院の外に男を作っただなんて、夢見がちな聖應の生徒を暴走させるには格好の火種だわ」

 異性というものにまったく免疫のない聖應の生徒に、
 このたちの悪い芸能週刊誌のような一枚がどれほどの衝撃になったのかは想像するのも馬鹿馬鹿しいところである。
 今日一日学院中に渦巻いていたあの騒然とした空気は、孤独感に慣れているはずの香織理にさえ戸惑いを与えるほどだった。
 ましてそれが渦中の千早の立場であれば、いったいどれほどの重圧に感じられることだろう。
 あの余裕たっぷりの千早が一日でここまで追い詰められたのだ。
 改めて女子の放つ無言のオーラというものの恐ろしさを実感せずにはいられない。

166 :10/22:2010/08/14(土) 21:55:12 ID:7mA8Gq590
「収拾、どうやってつけたらいいんでしょう……」
「ちょっとすぐには考えつかないよね……
 千早には悪いけどさ、私だって前知識というか裏事情を知らなかったら、
 この写真は“決定的瞬間”だって、そう思いこんじゃうよ」

「そんなに苛烈でしょうか、その写真」

 困憊した様子で千早が言う。写真の中の満開の笑みと見比べると、どうしてもそのギャップに噴出しそうになる香織理だった。

「ゴシップの王道を地で行くようなシチュエーションだもの。
 型に嵌りすぎていて逆に別の視点で捕らえにくくなってしまっているのね。
 否定すればするほど怪しくなる。ああ、まったくなんてどつぼなのかしら。ふふふっ」

 千早には悪いけれど――これはこれで、ちょっとしたエキサイティングかも、なんて。
 恨めしそうに呪いの言葉を吐き出し続ける千早をよそに、薫子と香織理は目を合わせて苦笑しあうのであった。

167 :11/22:2010/08/14(土) 22:01:12 ID:7mA8Gq590
 ▽

 それからしばらくの今後の方針について話し合ったが、結局これという妙案は浮かんではこず、
 時間も遅くなってきたので三人は夕食を取るために食堂へと降りてきた。
 ドアを明けるとすでに千早たち以外の寮生が席に着いており、訪れた千早の顔を見るなり、四者四様の表情を浮かべてみせた。

「ちはや、かおるこ。それにかおりも。もう少しで、ちこく」

 一連の騒動のことをよく理解していないのか、優雨の態度はいつもと変わりない。
 その姿が千早の胸に一糸の安堵感をもたらした、かのように見えたのだが、

「あ、ち、千早ちゃん……」

 その優雨の姉、初音の態度はといえばなんともぎこちない。
 目を合わせるなり顔を真っ赤にした挙句に、視線を逸らされてしまった。
 ぐさり、と胸に鋭いものが突き刺さる感触に、千早の顔が青白くなる。


168 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 22:05:52 ID:M7GILbLBO
支援

169 :12/22:2010/08/14(土) 22:07:30 ID:7mA8Gq590
「おお、これはこれは千早お姉様!」

 それを茶化すかのように元気一杯の声を出すのは陽向だった。
 噂好きな彼女のこと、いったいどれだけ曲がった情報を得ている事やら。
 ともすれば、自分が迂闊な発言をすれば、彼女を媒体に二次災害が発生するとも限らない。下級生はこわい。
 そう、こわいのだ。

「千早様」
「ふ、史……これはね、その」

 そして食堂で待っていた四人のうち、もっとも抑揚のない声が千早の耳を震わせる。
 おそるおそる振り向いて見ると、ぱっちりと開かれた二つのひとみが千早の顔をじっと捉えて放さなかった。
 背筋が凍る思い、というのはこんな気分なのだろうか。
 なにを考えているのかわからない史の表情に、千早の不安はますます膨らんでいく。
 だが、

170 :13/22:2010/08/14(土) 22:12:29 ID:7mA8Gq590
「なにもおっしゃっていただかなくて結構です、千早様。大まかな事情は察しております」
「史……」

 彼女の返してきた言葉は存外優しいもののように千早には聞こえた。
 声色こそ変わらないが、その目の色が少し和らいだように感じられたのだ。
 もしかしすると、許されているのだろうか。もっとも今回の騒動に、直接千早の非があったわけではないが。
 それでもいい。史に慰めてもらえる。それだけでどんなにか心が軽くなるだろうと千早が期待した、それとまったく同じタイミングで、

「ですが、」
「へっ?」
「ですが千早様、いくら女性に成り切らなくてはいけないとはいえ、
 男の方とのお付き合いまでシュミレートなさるというのははっきり言ってどうかと存じ上げます」
「ち、……ちっがーう!!」

 ――お前もか! お前もなのか、史!
 信頼していたはずの従者にまで男としてのアイデンティティを否定されかけ、
 プライドが崩れ落ちていく音がはっきりと千早の耳に鳴り響いていた。

171 :14/22:2010/08/14(土) 22:19:29 ID:7mA8Gq590
「違うのですか? 史はてっきり」
「違います! いいですか、私は男性に興味なんて――」
「おお、おおぉぉ、千早お姉様! 噂の払拭のためとはいえ今ここでそんなに大胆なカミングアウトを!」

 自分の正体のことにはこの際目を瞑り、必死の思いで口にした反論の言葉もしかし虚しい結果に終わった。
 きらきらと目を輝かせる陽向。そんな彼女が男性に興味などない、という言葉をどう曲解したのか、すでに考える気にもなれない千早だった。

「千早ちゃん、そんな……うぅん、誰を好きになるのも千早ちゃんの自由、だもんね……」

 そして追い打ちをかけるように初音。悪気が無いだけ遠慮をしない彼女の言葉は、鋭いナイフとなってプライドを切り裂き、

「千早、貴方もう何も喋らない方ががいいのではなくて? 今の貴方にはもう墓穴を掘ることしかできそうにないわね」

 そして香織理の手によって突き立てられるトドメの矢。
 引きつった笑いを口の端からふふふと漏らすと、それきり千早は一言も口にしなくなった。
 部屋の隅でちぢこまって震える背中の小ささに一言、「うさぎさんみたい」と最後に付け加えたのは優雨だった。

172 :15/22:2010/08/14(土) 22:25:30 ID:7mA8Gq590


「――と言うわけで、今回の噂はまったくの勘違いってことなんだけれども」

 戦線離脱した千早に変わって、薫子が食堂にいた四人に事の起こりを話して聞かせた。
 千早が会っていたのはあくまでも知り合いであり、決して噂されているような関係にはない、と。
 ただ、順一が自分の身内である、という話だけは伏せることにした。
 どこから我が身に火の粉がふりかかるかわからない、薫子も千早の二の舞いになることだけは御免だった。

「えぇー、勘違いなんですかぁ? それじゃあこの写真に写ってる方はいったいどなたなんですしょう」

 初音と史は薫子の話に納得を見せたが、陽向だけはまだ承服しかねるところらしい。
 というよりこんな面白い話があるものかと、好奇心がほとんど暴走しかけている状態だった。

173 :16/22:2010/08/14(土) 22:31:14 ID:7mA8Gq590
「えっと、それはその、千早の昔からの知り合い、だよ、うん」

 順一の身分に困り、薫子は思わず口から出任せを言う。この程度のごまかしなら後からいくらでも帳尻を合わせられるはず。
 少し言葉に詰まって香織理の方へ視線を向けると、彼女がその後を引き継いでくれた。

「そういうこと。けどまぁあんまり絵になる光景だから、ぱっと見勘違いしてしまうのも無理ないわね。
 千早には気の毒な話だけれど」
「ただお友達と会っていただけだったんですね。ごめんなさい千早ちゃん、私ったら噂を鵜呑みにしちゃって……」

 初音の謝罪は、しかし千早には届かない。すっかり自分の世界に閉じこもってしまっていた。
 隣では優雨が不思議そうな顔をしてその頬をつついている。
 微笑ましいような、見ているほうが悲しくなってくるような、そんな光景。

174 :17/22:2010/08/14(土) 22:37:03 ID:7mA8Gq590
「信じないほうが無理って気もする感じだけどねー、この写真に限っては」

 そんな二人を尻目に、残された五人は改めて件の写真を見る。
 眩しい笑みを振り撒く千早。学院ではほとんど見せたことのない、その笑顔。

「そもそもこの写真どなたが撮ったんでしょうかね。
 こんなパパラッチまがいのことをする生徒が聖應にいるなんてちょっと驚きかも」

 誰もが思う所の疑問を陽向が口にする。

「そうねえ、出所は一応把握しておいた方がいいかしらね」
「でもこの写真って学院中をチェーンメールで回ったやつでしょ?
 最初に発信したのが誰かだなんて、突き止めるのは無理なんじゃないかなあ」

 犯人の正体を掴みたい所だが、薫子の言うようにその出所はまったくの謎である。
 学院中を一日のうちに縦横無尽に駆け巡ったこの携帯画像の本元を調べるのは相当骨が折れるだろう。
 誰もがため息をつきかけたその時、しかし意外な人物が意外な事を口にした。

「史、その方を存じ上げていると思います」

175 :名無しさん@初回限定:2010/08/14(土) 22:38:22 ID:M7GILbLBO
支援〜

176 :18/22:2010/08/14(土) 22:43:33 ID:7mA8Gq590
「ええ? 史ちゃんそれってほんとうに?」

 声を上げたのは史だった。いつもと変わらない面持ちが、しかし少しばかり自信ありげにも見える。
 まさか得意の機械で調べ上げられるとでも言うのだろうか、薫子はそう考えて、しかしすぐに違うとわかった。
 写真を配信した人物そのものを知っていると、史は確かにそう言ったのだ。

「はい。たしか同じクラスの衛里さんだったかと。
 先日駅前でとんでもないものを見てしまったと青い顔をしておっしゃっていましたが、
 今にして思えばそれこそが千早お姉様とそこの殿方との一緒にいる場面だったのではないかと思います。
 ちょうど噂が流れ始めた時期とも合致しますし」
「衛里さんて、千早が髪飾りを探してあげた子?
 なるほど千早のファンの子かあ、それはさぞかしショックだったんだろうね」

177 :19/22:2010/08/14(土) 22:50:56 ID:7mA8Gq590
 史のクラスそのものが一つの大きなファンクラブのようだ、という話は薫子も知っていた。
 敬愛するお姉様の逢瀬の場面を目撃してしまった、その衝撃がいかほどのものだったかは想像に難くない。
 しかし疑問が残らないわけでもない。それを確かめるかのように、初音がおずおずと切り出した。

「でも、それならどうして写真をこんなふうに流布したりなんかしたんでしょう。
 千早ちゃんに迷惑がかかるって、すこし考えたらわかるはずなのに」
「さあね。自分の見た光景がうそだって、否定してもらいたかったのかもね」

 少しおどけたふうな香織理の発言に、陽向が続く。

「でも画像が想像以上にセンセーショナルで、むしろ火を点ける結果になってしまったと。
 これはその衛里さんて方を責めてもどうにもならなさそうですねえ、完全に噂が一人歩きしちゃってる状態ですよ」
「生徒会にまで事の真相を問い詰めるような投書が来ている状態です、
 一筋縄では沈静化なんてできそうにありませんね……」


178 :20/22:2010/08/14(土) 22:57:13 ID:7mA8Gq590
 最後に初音がそう零したところで、一同の口から深いため息が漏れた。
 この状況にどこから穴を開ければいいのか分からない。
 噂が広まる前であればまだ対処のしようはあったかもしれないが、今回は完全に後手に回る結果となってしまった。
 なにより参謀・千早がダウンしているというのが大きい。
 他人のことには手を焼くくせに、自分のこととなるとてんで駄目になる千早の弱点が露骨に突かれた結果となってしまっていた。

「ちはや、元気だして」

 そんなふうに皆が今後の行方に頭を悩ませている間、優雨は会話の輪を外れて千早の相手をしていた。
 その純粋過ぎるやさしさに触れて、千早の口からも思わず本音が零れ落ちる。

「優雨……ごめんなさい、ちょっと傷が深いわ……」
「ちはやは、きれいだもの。みんな勘違いしちゃうのも、仕方ない」

179 :21/22:2010/08/14(土) 23:04:35 ID:7mA8Gq590
 弱り顔の千早は優雨の言うとおり確かに儚げな美しさを湛えていた。
 床に座り込んでいるために、返事をしようと振り返ったその視線は自然と上目遣いになる。
 幼子に縋る美女の図は、見るものに背徳的な印象を植え付けずにはいられないだろう。
 もっとも――妃宮千早の真実の顔を知っている人間にとっては、ミス・パーフェクトに付け入る隙以外のなにものでもないのだが。

「そういえば千早と最初に会った時も、男の人にナンパされて困ってたっけなあ。
 モテる女はつらいねぇ、ねーちはや〜♪」
「……薫子さん、屋上……」

 その時、千早の眼に一瞬猛禽の眼光が戻ったことに薫子が気がつくことはなかった。
 それまで唸っていた陽向が、唐突に薫子の言葉を復唱したのである。
 それも少し考え込むような口調だったものだから、皆いっせいに彼女の方を振り向いてその様子を伺った。 

180 :22/22:2010/08/14(土) 23:11:14 ID:7mA8Gq590

「ナンパ、……ですか」
「どうかしたのかしら陽向、珍しく神妙な顔をして」
「いえお姉さま、ちょっとシュミレートをですね……ここでこうなって、あそこで……ふふ、ふははっ、これだあーっ!!」

 と、香織理が話しかけたところで陽向の顔色がにわかに笑顔一色に染まり、暗雲を吹き飛ばすかのような威勢の良い声が食堂を震わせた。
 ――が、その宣言に不安を感じないものは誰一人としていなかった。
 なにしろ声高らかに立ち上がったのはあの陽向、である。
 お転婆娘が張り切りだすと、大抵事がややこしくなるのが世の常というもので。

「皆々様良くお聞きくださいませ!
 不肖この日向! 事態の可及的速やかな鎮火のため、とっておきの妙案を思いつきましたぁ!!」

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